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藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」【ハ】濱野京子さん
『すべては平和のために』濱野京子/作 白井裕子/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

「ハ」濱野京子さん『すべては平和のために』濱野京子/作 白井裕子/絵

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 僕が副理事長を務める日本児童文学者協会は、敗戦直後の一九四六年の創立ですが、創立七〇周年企画として「文学のピースウォーク」というシリーズを発刊しました。今子どもたちが戦争と平和を考えることのできる、新しい児童文学をということで企画されたものです。6冊出されましたが、中で異彩を放っていたのが、濱野京子さんの『すべては平和のために』です。ジャンルとしては近未来小説ということになりますが、主人公はインターナショナルハイスクール最終学年の平井和菜。彼女の父は多くの紛争を解決してきたグローバル企業PA傘下の平安コーポレーションの社長で、和菜も世界の平和に貢献できる仕事に就きたいと望んでいます。つまりこの時代、国家間の戦争はほぼなくなり、紛争の解決は民間企業に委ねられています。そんな折、夏休みに入った和菜に、南洋の島国アイロナ共和国からの調停依頼が舞い込みます。アイロナでは、独立を唱える地域との間で紛争が起こっていたのです。なぜ自分が指名されたのか、果たして自分に調停ができるのか、不安な思いを抱えながらも、アイロナに向かった和菜。しかし、そこで出会った様々な事実や、平和を作りだすはずの企業が実際に行っていることに直面し、これまで信じてきたことへの見直しを余儀なくされます。
 つまり、「すべては平和のために」というタイトルには、反語的な意味が込められていたわけです。この作品や、坪田譲治文学賞を受賞した『トーキョー・クロスロード』など、濱野さんの作品はこれまで紹介してきた作家たちに比べて対象年齢が高く、図書館によってはYA の棚に置かれている作品が多いかと思います。近 作の『ソーリ! 』の主人公照葉は小学校5年生です。保育園時代から何事にも積極的な照葉でしたが、1年生の夏、学童クラブで七夕飾りを作った時、短冊に「そうりだいじんになりたい」と書いたのを男の子にからかわれたのが、トラウマになっています。5年生になって、その男の子・東太と同じクラスになり、心配した通りかつての「ソーリ」のニックネームをみんなに知られてしまいます。学年の後期に、その東太と学級委員をやるハメになり、いろいろな出会いの中で輝きを取り戻していく照葉。
 実は、小学校の確か6年生の時に、キャンプファイヤーで「紙になりたいものを書いて燃やせば、きっと実現する」と言われ(さすがに信じはしませんでしたが)、「社会党委員長」と書いた覚えのある僕には、とても共感できるストーリーでした。ともあれ濱野京子さんが、今もっとも目を離せない書き手の一人であることは、まちがいありません。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。