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『口で歩く』
『口で歩く』
『口で歩く』
藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」丘 修三
『ぼくのおじいちゃん、ぼくの沖縄』汐文社 上條さなえ/作 岡本順/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」上條さなえ さん 『ぼくのおじいちゃん、ぼくの沖縄』汐文社 上條さなえ/作 岡本順/絵

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 児童文学の作家には、十代の頃から童話を書き始めて、そのまま作家になってしまう「早熟型」と、大人になって(親になったり、先生になったりという形で)子どもと出会う中で作品を書き始める「成熟型」、そしてその「中間型」とでもいうべき三つのタイプがいるように思います。学校の先生をやめ、結婚して主婦となり、母親となって童話を書き始めたという上條さなえさんは、「成熟型」の書き手といえるでしょう。
 その上條さんのデビュー作となった、『さんまマーチ』は、一九六〇年代の山梨の農村が舞台で、建具大工のお父さんにしっかり者のお母さん、そして主人公は八人兄弟の六番目のひろしという設定。実はこの作品の原型は、作者自身の体験ではなく、ご主人の少年時代がモデルという、ちょっと珍しいケースです。ある時、夕食にサンマを出したら、ご主人が子どもの頃一匹のサンマをみんなで分けて食べたという思い出話を始め、それが物語のもとになったというのですから、なにがきっかけになるかわかりません。
 その上條さん自身の少女時代というのは、事業に失敗したお父さんと二人で旅館を泊まり歩き、一時は養護施設に入所するなど、波乱に満ちた日々でした。そうした子ども時代だったからこそ、貧しくてもサンマを分け合う家族の姿が貴重なものに思えたのでしょう。この時の体験は講談社文庫の『10歳の放浪記』に詳しく、NHKで著名人の子ども時代をドラマ仕立てで紹介する「わたしが子どもだったころ」でも放送されました。
 そういう上條さんの作品は、様々な困難をかかえた子どもたちへの励ましに満ちています。そう書くと、なにやら説教くさい感じがしてしまうかもしれませんが、その作品世界はカラッとしていて、ユーモアたっぷりなのです。そして作者の視線は、様々な事情で外国から日本にやってきた子どもたちにも注がれています。読書感想文コンクールの課題図書になった『アディオスぼくの友だち』に登場するレベッカは日系ペルー人の女の子、『スーパーガールのいちごちゃん』の野原いちごのパパはベトナム人という具合で、いずれも日本の子どもたちをたじたじとさせるバイタリティの持ち主です。
 埼玉県内の児童館の館長を務め、埼玉県教育委員なども歴任した上条さんは、現在は沖縄に移られ、新たな環境の中で文学活動を続けられています。沖縄に移って一年後に刊行されたのが『ぼくのおじいちゃん、ぼくの沖縄』で、埼玉の不登校の小学生が、赤ちゃんの時に別れたおじいちゃんに会いに、一人で沖縄に向かいます。これもまた、上条さんの人生と思いがぎっしり詰まった一冊でした。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。