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『口で歩く』
『口で歩く』
『口で歩く』
藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」きむらゆういち
『あらしのよるに』講談社 きむらゆういち/作 あべ弘士/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」きむらゆういち さん 『あらしのよるに』講談社 きむらゆういち/作 あべ弘士/絵

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 今回紹介する木村裕一さんの名前をご存じなくとも、『あらしのよるに』と聞けば、思い出される方も多いと思います。嵐の夜に、偶然同じ小屋に避難した二ひきの動物たち。先にいたのはヤギで、後から入ってきたのはオオカミ。真っ暗で相手の姿は見えず、足を痛めたオオカミが杖をついてきたので、ヤギの方はそれがひづめの音だと思い、お互いに相手のことを同類だと錯覚します(メイとガブという名前は、3巻目で初めて出てきます)。それを観ている方は状況がわかっているのに、肝心の当事者はまったく気がついてないというシチュエーションは、ドラマ作りの手法の一つですが、それがこの本ではあべ弘士の黒を基調とした線画風のタッチの絵と相俟って、最高の効果をあげています。ちなみに、僕は大学の創作の授業で、「状況設定」ということについて教える教材として、この作品とアンジャッシュのコントを紹介します。両者の台詞のすれ違いのおかしさという点では同じパターンですが、そこからくるドキドキ感の中身はかなり違っています。そして、「この先、いったいどうなるのか?」という読者の声に応えて、必ずしも予定されていなかった続編が次々に出され、アニメでもヒットしました。
 木村裕一さん(「きむらゆういち」という平仮名標記の方が多く使われていますが)は美大出身で、ご自身も絵を描かれます。大学卒業後に開設した造形教室での子どもたちとの出会い、そしてご自身の子育ての中での気づきが、どんなふうに作品世界に生かされているかは、岩波ブックレットの『子ども、あなどるべからず』が、格好の証言になっています。「子どもの視点に立って」とは児童文学でよくいわれることですが、同時に大人としての視点もゆるがせにしない木村さんの姿勢は、『あらしのよるに』に見事に表現されているように思います。この他にも、『オオカミのごちそう』『風切る翼』(これはツルの話)のように、動物たちの物語が多いのですが、これもヒットシリーズとなった「あかちゃんのあそびえほん」でも動物のキャラクターたちがうまく生かされています。
 さて、講談社現代新書の『きむら式童話のつくり方』では、そんな木村さんの創作の裏側がとても率直に語られているのですが、僕が一番印象的だったのは、子どもの作品の審査で松井秀喜さんと一緒になった時のエピソード。「大リーグで最初のバッターボックスに入った時、どんな心境でした?」と聞いたというのです。その時の松井選手の答もなかなかなのですが、僕はこの質問がいかにも「状況設定の木村裕一さん」にぴったりだと思い、笑ってしまいました。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。