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藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」【ク】薫くみこさん
「十二歳の合い言葉」 ポプラポケット文庫 薫くみこ/作 中島潔/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

『河童のクゥと夏休み』岩崎書店刊木暮正夫/作, こぐれけんじろう/絵

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 これまで紹介してきたのは、最初のあまんきみこさんから前回の薫くみこさんまで、すべて現存の、つまり今も本を出し続けている書き手たちでした。今回初めて、すでに亡くなられた方を取り上げることになります。木暮正夫さんです。この項を書く前に地元の図書館で確かめてきましたが、今でも本棚を一段と半分〝占拠〟していました。考えてみれば、子ども読者にとっては、作家が生きていても亡くなっていても、本がおもしろければいいわけです。
 十年前になりますが、松竹系でアニメ映画「河童のクゥと夏休み」が上映されました。「クレヨンしんちゃん」の劇場版などを作った原恵一監督が、二十年も温めていた企画とあって、すばらしい作品でした。映画は木暮さんの河童シリーズ二作を原作としているのですが、公開と合わせて映画と同じタイトルで復刊されました。僕はこの時、映画のパンフレットに作品の解説を書くという仕事を、初めてさせてもらいました。ただ、木暮さんは映画公開(二〇〇七年夏)を待たず、その年の一月に亡くなられたのです。返す返す無念なことでした。
 木暮さんの本で一番親しまれているのは、やはり「日本のおばけ話・わらい話」などのシリーズでしょう。一九八六年に始まったこのシリーズは全二〇巻に及びます。僕が今持っている第五巻「クスクスゆかいなわらい話」は、九五年に出たものですが第三一刷となっており、大ヒットだったことがわかります。絵を描いているのは「かいけつゾロリ」の原ゆたかさんで、木暮さんの文との楽しいコラボがとても新鮮でした。八六年といえば「かいけつゾロリ」がスタートする一年前ですから、原さんにとっては格好の助走になったのではないでしょうか。
 さて、ノンフィクションや歴史小説なども含めて幅広い分野で活躍した木暮さんですが、僕が木暮さんならではの作品世界だと思うのは、〝商売〟を題材にした作品で、『日の出マーケットのマーチ』などはその好例です。舞台は東京近郊の駅前の商店街。ここに出店している家の子どもたちは「子ども奉仕会」を組織していて、毎日曜日にマーケットの清掃などをしています。ところが、近くに大型スーパーができることになり、日の出マーケットは危機を迎えるのです。
 こうした舞台設定の作品はとても少ないのですが、自身前橋の小さなラジオ店の長男として生まれ、若い頃はさまざまな職業を経験した木暮さんは、本物の「生活」のドラマを描ける、数少ない書き手でした。そんな木暮さんの新しい本が並ぶことがないことは、なんとも残念でなりません。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。