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藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」【ク】薫くみこさん
「十二歳の合い言葉」 ポプラポケット文庫 薫くみこ/作 中島潔/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

「十二歳の合い言葉」 ポプラポケット文庫 薫くみこ/作 中島潔/絵

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 童話作家のペンネームは、最初のあまんきみこさんのところで書いたように、本名をひらがなに開く程度のものが多いのですが、今回の薫くみこさんの場合はちょっと違います。「くみこ」は本名のひらがなパターンですが、「薫」は本名でも旧姓でもありません。名前がくみこなので、子ども時代「くんちゃん」と呼ばれていたのだそうです。それをペンネームの姓にしたわけです。「薫」という字を充てたのが秀逸ですね。でも、大体の人が「かおる・くみこ」と読んでしまうでしょう。「くん・くみこ」と読めたら、ちょっと自慢? かもしれません。
 その薫さんの第一作は『十二歳の合い言葉』で一九八二年でした。大人っぽい美少女のかおり、ややぽっちゃり系でおっとりした菜々、スポーツウーマンの梢という組み合わせの6年生。ところがこの三人、学校創立以来の悪童とも言われていて、先生たちの手を焼かせます。彼女たちが問題を起こすのは担任の西田先生にも原因があり、なにかというと三人のせいにする一方、かおりへのセクハラ的言動も目立ちます。その先生の造形は結構容赦がなく、最初に読んだ時には、僕自身が小学校教員を辞めてまもない時期だったこともあり、いささか居心地の悪さすら感じました。逆に言えば、徹底して子どもたちの本音に寄り添った作品だったと思います。この作品はシリーズになりましたが、第二作の『広海くん』にはまた違った意味で驚かされました。
実は、この稿を書いている八月、鎌倉文学館の「岡田淳展」を見るために江ノ電に乗ってきましたが、『広海くん』は江ノ電が舞台ともいえる作品です。長谷あたりに住む3年生のヒサと広海の物語が交互に語られる構成ですが、クラスが違う二人がお互いを意識するようになるきっかけが江ノ電なのです。少年と少女それぞれの心模様がしっくりと描かれた作品世界で、当時まだ二十代半ばの新人作家の文学性の幅広さに驚きました。
 その後も、「おまかせ探偵局」や「少女作家は12歳」などの人気シリーズを連発、今の三十代、四十代の女性で、これらのシリーズにはまった人は多いのではないでしょうか。加えて、『ちかちゃんのはじめてだらけ』や近作『げんきのみかたパンツちゃん』といった幼年童話、絵本でも楽しませてくれます。
 今思えば、薫さんの上記シリーズは、エンターテインメント性では、その後の青い鳥文庫等の書き下ろしシリーズの、そして少女たちの心の物語という意味では、九〇年代以降に講談社新人賞等からデビューした一群の書き手たちの先駆けと言えるようで、今更ながらその影響力の大きさを実感しています。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。