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藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」【モ】茂市久美子さん
『つるばら村のパン屋さん』講談社刊 茂市久美子/著 中村悦子/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会 理事長。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』(共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞)などがある。小学校国語教科書編集委員なども務める。

『つるばら村のパン屋さん』講談社刊 茂市久美子/著 中村悦子/絵

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 茂市久美子さんは、小学校中学年から高学年あたりに向けたファンタジーを多く書かれていますが、代表作はやはり「つるばら村」シリーズでしょう。つるばら村は茂市さんの故郷がベースになっているようで、宮沢賢治を生んだ岩手が、現役の作家でも柏葉幸子さんや茂市さんと、すぐれたファンタジーの書き手を輩出しているのは、隣県秋田の出身である僕からすると、とてもうらやましい感じがします。

 さて、第一作の『つるばら村のパン屋さん』では、町のパン屋で働いていたくるみさんが、おばあさんのすんでいた家に越してきて、パン屋「三日月屋」を開きます。宅配専門で、将来赤いレンガ屋根のパン屋を開店するのを夢見るくるみさん。その三日月屋に注文にやってくるのは、第一話の「はちみつのパン」では若いクマ、第三話の「三日月のパン」はホテルを切り盛りするうさぎという具合で、連作短編の形でいろんなお客さんと出会うというパターンは、こうした〈お店もの〉のファンタジーとしては鉄板の構成でしょうか。

 第二作の『つるばら村の三日月屋さん』では、くるみさんがいよいよ念願のパン屋さんを駅前に開店しますが、あとがきで店名の由来が明かされています。〈三日月パン〉というのはクロワッサンで、フランス語で三日月のことなのだそうです。茂市さんは上京して女子大の寮に入りますが、そこで初めてクロワッサンに出会ったということで、このシリーズは、茂市さんの郷里への想いをベースにしつつ、そうした様々な出会いのエッセンスが散りばめられているように思います。

 今はこうしたファンタジーの書き手としてのイメージが定着している茂市さんですが、実は最初の本はノンフィクションで、ヒマラヤへの旅を題材にした『氷河と青いケシの国』でした。この本の著者紹介には「1977年5月より12月まで、1978年6月より1979年5月まで、二度にわたりネパール各地を旅する」とあります。茂市さんは二十代後半の大半を旅の中で過ごしたことになります。まだ海外ツアーも少なかったこの時代、よくヒマラヤへの旅を思い立ったなと、感心してしまいます。何かへの強いあこがれを実現したからこそ、その後の茂市さんの柔らかなファンタジーの世界が拓けたのかも知れません。

 その一つ『ゆうすげ村の小さな旅館』は、つぼみさんというおかみさんが切り盛りする旅館を舞台にした連作短編集で、第一話「ウサギのダイコン」は東京書籍の三年生の教科書に載っていました。くるみさんもつぼみさんも、若き日の茂市さんのように、どこか遠くに行ってみたいというあこがれを心に秘めているのではないでしょうか。そんな想いが、不思議なお客さんたちを呼び寄せるのかも知れません。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会 理事長。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』(共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞)などがある。小学校国語教科書編集委員なども務める。