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『口で歩く』
『口で歩く』
『口で歩く』
藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」丘 修三
『口で歩く』小峰書店 丘 修三/作 立花尚之介/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

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 児童文学作家のペンネームは、一回目のあまんきみこさんのところで書いたように、名前を平仮名に開くというパターンが多く、本名とまるきり異なるペンネームという方は少ないのですが、今回の丘修三さんはその代表例。養護学校の教員をされていましたが、四十歳の時病気のため休職を余儀なくされます。それを機に児童文学を志し、選んだ名前が「丘修三」でした。世の中、ちょっと「おかしいぞ」からつけたといいますから、その批判精神は筋金入りです。  丘さんが注目されたのは、『日本児童文学』誌の創作コンクールに応募した作品が次々に高い評価を得たことで、八六年度の年間一位となり、この年の12月にはそれらの作品を集めた『ぼくのお姉さん』が偕成社から出版されました。児童文学の世界で新人第一作が短編集として出版されるのはかなり稀なケースです。収録された六作品すべてが障害者(児)を登場させていますが、もっとも印象的だったのは「歯形」でしょうか。養護学校に通う男の子を待ち伏せしてからかう少年たち。一人がその男の子の手を踏んだ時、男の子は少年の足にがぶりとかみつきます。くっきりと残った歯形。二日後に、養護学校の先生とその男の子が少年たちの小学校にやってきて、校長室での「対面」となります。物語の語り手は少年たちの一人なのですが、その〈ぼく〉も含め、誰も本当のことを言う勇気はありません。なぜあの時真実を言えなかったのか……。作品は「ぼくの心に、あの子の歯形がくっきりとのこった」と結ばれます。障害者を描いた児童文学作品はそれまでもありましたが、『ぼくのお姉さん』は、それまでのすべての作品を「ぼくのお姉さん以前」としてしまうほどのインパクトを備えていました。  その後丘さんは、熊本での少年時代を題材にした作品(その中の「紅鯉」は教科書に収録)やファンタジーも含め幅広い作品を書かれていますが、やはりメインは障害をテーマとした作品で、中でお勧めは『口で歩く』でしょうか。  主人公の青年は、障害のために歩くことはおろか、起き上がって車椅子に乗ることさえできません。その若者が散歩に行くのですが、母親が車輪のついたベッドを表に出すと、それに乗った青年・タチバナさんは、ベッドにつけたバックミラーを見て通りかかった人を呼び止め、自分の行きたい方向だったら押してくれるように頼みます。そうしてリレーのようにして友だちの家に着き、「君は口で歩くんだね」と言われるのですが、このタチバナさんの造型がとても自然体で、いいのです。子どもにも大人にも読んでほしい一冊です。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。