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藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」【ヤ】山下明生さん
『さんまのさんすう』理論社刊 山下明生/作 渡辺洋二/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

【ヤ】山下明生さん 『さんまのさんすう』理論社刊 山下明生/作 渡辺洋二/絵

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 今はなくなってしまったのですが、以前「海洋文学賞」という賞があり、海に関する小説や童話の募集と共に、「海の作家」を対象とした特別賞があり、白石一郎、北杜夫、石原慎太郎などが受賞しています。その時に、もしも児童文学で「海の作家」を挙げるなら誰だろう、と考えました。思いつくのは唯一人。それが今回紹介する山下明生(はるお)さんです。 山下さんの「海の作家」ぶりは、図書館の棚を見れば一目瞭然。「うみぼうや」シリーズやアニメ化もされた『海のコウモリ』などはもちろん、『ふとんかいすいよく』『島ひきおに』『屋根うらべやにきた魚』『カモメの家』という具合に、海を連想させるタイトルが並びます。これまでの教科書掲載作品でも、「はまべのいす」「遠眼鏡の海」という具合です。中であえて代表作をあげれば、やはり『うみのしろうま』でしょうか。
 作品には地名は書かれていませんが、舞台は山下さんが幼少時代を過ごした瀬戸内海の能美島。父親が海で死に、母も病弱なため、漁師のじいちゃんと二人で暮らすはるぼう。じいちゃんから、嵐になると海に白い馬が群になって現れ、海の上を走り回ると聞いて、はるぼうの心の中にうみのしろうまが棲み始めます。そして、嵐の日にじいちゃんの船だけが返って来ず、じいちゃんが作ってくれた見張り台で寝てしまったはるぼうは、海の上を走るしろうまの群を目にするのです。海への懼れや憧れ、父、母、じいちゃんへの思い、そうした様々な感情が〈うみのしろうま〉という幻想に仮託されて詩情豊かに描かれ、さらに長新太の絵がそうした独特な世界を見事に表現しています。この文と絵のコラボは本当にすばらしく、さすがに自分で編集したわけではないと思いますが、山下さんはかつてあかね書房の編集長も務めていました。
 この作品も含め、独特の叙情性を感じさせる作品が多い中で、『さんまのさんすう』は、実に笑える作品です。ある時、太平洋の真ん中に10万匹のさんまの群がわき、それぞれ20万のタマゴを生んだ。その年はどういうわけか、卵がみんな良く育った。というわけで、10万×20万でさんまが200億匹。ところが次の年も海の具合がよくてみんな育ってしまった。200億×20万。さあ、このさんまたちがみんな日本の海に押し寄せてきたらどうなるだろう、というすごい算数。さんまも近年高級魚という話もありますから、ちょっと違って読めるかもしれません。
 京大仏文科出身である山下さんは翻訳の仕事もしていて、「バーバパパ」シリーズを手掛けています。今は熱海にお住まいの山下さん。海の物語はまだまだ尽きることがないでしょう。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。