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藤田のぼるの「童話作家のアイウエオ」【ヨ】吉橋通夫さん
『京のかざぐるま』日本標準刊 吉橋通夫/作 なかはまさおり/絵
 

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。

【ヤ】吉橋通夫さん 『京のかざぐるま』日本標準刊 吉橋通夫/作 なかはまさおり/絵

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 今回紹介する吉橋通夫さんは、歴史ものを得意とする作家です。児童文学の歴史小説、時代小説は、かつては『花咲か』など江戸期の庶民の暮しを多く題材にした岩崎京子さん、金沢百万石を舞台にしたかつおきんやさん、『光太夫オロシャばなし』など歴史に取材した来栖良夫さんなど、多彩な書き手がそろっていましたが、近年はやや低調な感じは否めませんでした。そうした中で吉橋さんは孤軍奮闘というか、デビューから一貫して歴史ものを書き続けています。
 吉橋さんが注目されたのは、幕末の京都を舞台にした短編集で、日本児童文学者協会賞を受賞した『京のかざぐるま』でしょうか。その中で、中学校一年の教科書に採られたのが「さんちき」です。主人公は、車大工の親方のもとで修業中の三吉。この年、祇園祭の鉾山車の矢(スポーク)を一本だけ任せられます。修行五年にしてようやく仕事らしい仕事を成し遂げた三吉は、あまりのうれしさに、その矢に自分の名前を入れようと、親方に見つからないよう夜中に起きだして、ひらがなで名前を彫り始めます。ところが起きだした親方に見つかってしまい、おまけに「さんきち」が「さんちき」になってしまっていることに気づかされます。その時、外でものものしい音がし、のぞいてみると、武士が一人倒れていました。当時の京都は佐幕派と勤王派との血なまぐさい抗争が繰り広げられていたのです。「さむらいたちはなんにも残さんと死んでいくけど」「この車は百年もの間、ずっと使われ続けるんや」という親方。「さんちきは、きっとうでのいい車大工になるで」という三吉のつぶやきで作品は結ばれています。他にも鳥羽伏見の戦いの直前、寺田屋で働く足の不自由な少女など、激動の歴史の中にいたはずの少年少女たちの姿が描かれます。
 こうした歴史に対する視点は、秀吉の朝鮮出兵を題材にした長編『風の海峡』などにも、しっかり受け継がれています。主人公は、対馬生まれで十四歳の梯(かけはし)進吾。進吾の父は、朝鮮との交易の窓口である釜山の倭館で働いており、進吾もすっかり釜山の人たちとなじんでいます。ところが、朝鮮出兵の知らせと共に倭館を引き上げることになり、先鋒の小西行長軍に通詞として従軍することになった父親と共に、進吾も「敵」として再び朝鮮の地を踏むことになります。自分自身の思いとは関わりなく、国や権力には抗しきれずに武器をとらなければならない兵士たち。その矛盾や不条理が進吾の眼を通して語られます。それは、なぜ児童文学として歴史を語るのかという設問への、吉橋さんの一つの回答であり、模索であると感じ取れます。

◇藤田のぼる(ふじた のぼる)-profile-
1950年秋田県生まれ。児童文学評論家・作家。日本児童文学者協会副理事長。 聖学院大学他講師。著書に『児童文学への3つの質問』(てらいんく)、『少年少女の 名作案内 日本の文学』(共編、自由国民社)『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 (共編著、原書房)など、創作作品に『山本先生新聞です』(岩崎書店)、『錨を上げて』(文 溪堂)『みんなの家出』(福音館書店、2014年度産経児童出版文化賞フジテレビ賞) などがある。小学校国語教科書編集委員、NHK学校放送企画委員なども務める。