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世界の学校こぼれ話 二宮 皓
AkiraNinomiya

【PROFILE】二宮 皓(にのみや・あきら)
1945年、鳥取県生まれ。広島大学教育学部卒。広島大学大学院教育学研究科博士課程中退。大学院在学中米国フルブライト留学(コネチカット大学)。文科省大臣官房調査課、広島大学教授、同大学留学生センター長・教育開発国際協力研究センター長・理事・副学長、放送大学理事・副学長、比治山大学学長などを歴任。専門は比較・国際教育学。著書に『世界の学校』(学事出版)、『21世紀の教育と学校』(協同出版)、『こんなに違う!世界の国語教科書』(監修、メディアファクトリー新書)、『こんなに厳しい!世界の校則』(監修、メディアファクトリー新書)など。テレビ『世界一受けたい授業』への出演なども。

このシリーズは、共同出版発行の月刊『教職課程』に2009 年9月号から2010年8月号までに連載した「放課後の学び舎」を採録したものです。

第1回

時 間 その一

動物の時間

「本書ではスケーリングの手法にもとづき、動物の時間やエネルギー消費量について見ていくことにしましょう。この方法を用いると、時間は決して不変ではなく、動物が違えば時間も変わることが分かります。」(本川達雄『時間―生物の視点とヒトの生き方』日本放送出版協会)。

著者によると、スケーリングとは「動物のサイズが変わると何がどう変わるかを調べる学問」であるという。それによると「動物には独特の時間のデザインがあり、時間ですら、動物が関わってくると唯一不変というわけにはいかない」という興味深い発見がある。たとえば心臓の拍動。一分間に60~70 回のペースで規則正しく拍動しており、その心臓が一回ドキンと打つ時間を心周期というそうですが、それがヒトではおよそ一秒だそうです。

ところが本川氏によると、サイズの小さい動物の心周期は短く、サイズが大きくなるに従って心周期が長くなる。ハツカネズミ(30g)が0.1 秒、ネズミ(350g)が0.2 秒、ネコ(1.3 ㎏)が0.3 秒、ヒト(60 ㎏)が1秒、ウマ(700 ㎏)が2秒、ゾウ(3t)が3秒と、サイズが大きくなるに従って、心周期も長くなっている。心臓だけでなく、肺や腸あるいは筋肉もその時間は「体重の1/4 乗にほぼ比例する」ことがわかったそうです。肺の動きは心臓の動きよりゆっくりしている。寒いときに震えるあの「ガタガタ」という身震いでさえ、動物のサイズによってかわるそうです。

さらに一生にかかわる時間もまた「体重の1/4 乗に比例する」という。「成獣のサイズに達する時間、性的に成熟するまでの時間、懐胎期間など、みな体重の1/4 乗にだいたい比例する」そうです。たとえば懐胎期間はヒトが十月十日、ゾウが600 日、ネズミが3週間であるという。寿命も同様に大きいものほど寿命が長く、小さいものは短命であるという。

感じる時間もそこで動物によって違うことになるという指摘が興味深いと思います。時間が体重の1/4 乗であることから、体重が2倍になると時間が1.2 倍ゆっくりになり、体重が10 倍であると時間が1.8 倍ながくなる。ゾウの時間はネズミよりも「時間が1.8 倍ゆっくりながれているのかもしれません。」 ゾウやネズミが双方の動作についてどのように感じるかはわからないにしても、もしわかれば多分「ネズミから見れば、ゾウなんてただ突っ立っているだけで、全然動かないように見える。」 生きるペースが違う。そこで本川氏は次のように大変おもしろい「動物の時間」という考え方を指摘をしているのです。

「もちろん動物たちが実際にどう思っているかは分かりません。でも、ゾウとネズミのようにこれだけ生きるペースが違っていれば、たとえすべての動物に万物共通の時間が流れているとしても、その時間のもつ意味や、その時間を使っての生き方が、動物ごとに大きく異なっていても不思議はない気がします。ゾウとネズミと、確かに両者ともこの地球上に生きてはいるのですが、彼らが同じ世界に住んでいるのだと、そう簡単に言い切るわけにはいかないでしょう。いっそのこと、ゾウとネズミは違う時間、違う時空、違う世界に住んでいるのだと見たほうが、かえってすっきりするように私には思えます。」