ホーム>世界の学校こぼれ話 第10回 教育様式② その一

世界の学校こぼれ話 二宮 皓
AkiraNinomiya

【PROFILE】二宮 皓(にのみや・あきら)
1945年、鳥取県生まれ。広島大学教育学部卒。広島大学大学院教育学研究科博士課程中退。大学院在学中米国フルブライト留学(コネチカット大学)。文科省大臣官房調査課、広島大学教授、同大学留学生センター長・教育開発国際協力研究センター長・理事・副学長、放送大学理事・副学長、比治山大学学長などを歴任。専門は比較・国際教育学。著書に『世界の学校』(学事出版)、『21世紀の教育と学校』(協同出版)、『こんなに違う!世界の国語教科書』(監修、メディアファクトリー新書)、『こんなに厳しい!世界の校則』(監修、メディアファクトリー新書)など。テレビ『世界一受けたい授業』への出演なども。

このシリーズは、協同出版発行の月刊『教職課程』に2009 年9月号から2010年8月号までに連載した「放課後の学び舎」を採録したものです。

第10回

教育様式② その一

アジア的教育様式と日本の学校の個性

欧米の教育の所作と比べて、アジア的・日本的な教育の所作としては何があると思いますか。世界に誇るべきものかどうかは別にして、特殊アジア的あるいは特殊日本的教育様式と思えるものを列記してみてください。この問いに応えられる人は相当な人でしょうね。私たち自身もあなたの個性はどこにありますか、と問われ、答えに躊躇することがよくありますね。その際、他の人と比べてみないとなかなか見つけることができませんね。

日本の学校にあって欧米の学校にないもの、あるいはないこと、を探してみましょう。

 

●給食

例えば、学校給食はどうですか。日本的でしょうか。イギリスやアメリカの学校にもあるようですね。

 

●制服

学校の制服はどうですか。「制服の乱れは心の乱れ」といって先生に叱られたことはありませんか。すごい考え方ですね。でも制服はイギリスやオーストラリアの学校あるいはアフリカの学校にもあるようですね。心の乱れだというかどうかはわかりませんが、就学する上で制服が重要な役割を果たしていることは間違いないと聞いております。

 

●上履きと下足置き場

上履きはどうですか。これなら畳文化の日本で、家でも靴のまま上がる人はいないから、まさに日本的だと思いますよね。下駄箱が生徒の入り口に並んでいる学校、お客さん用スリッパが用意してある学校は確かに日本だけのようですね。でも偶然ですが、スイスのバーゼルの小学校へ行ったとき、教室の前の廊下に生徒の靴がずらっと並んでいるのを発見しました。生徒は上履きを履いているのです。欧米の学校で上履きを履かせている学校はなさそうですが、どこかにはあるようですね。残念。

 

●運動会や学芸会

運動会や学芸会はどうですか。イギリスではスポーツの日があるようですし、アメリカの学校ではマラソンの日があるようですし、スポーツを楽しむ英米の学校には運動する日(自由参加かもしれませんけれど)があるようですね。同様に夕方から保護者や地域の人を招いての文化祭のような演劇の日もあるようですね。アメリカでも誰が主役を演じるかは大問題のようです。人種問題も絡みますからね。

 

●いも掘りなどの勤労体験学習

勤労体験学習はアメリカの学校のキャリア教育の一環として行われますので、日本のものというわけにはいきませんね。

 

●習字

習字はどうですか。漢字文化圏の特許みたいですよね。墨汁を用いる独特の習字は日本的でしょうね。でもそれぞれ独特な装飾文字を学ぶことは世界の多くの学校で教えているようですね。アメリカの英語の教科書には手話(アルファベット)も載っています。

 

●班学習

班学習はどうですか。集団主義的ですので、何となく日本が得意の学習様式の感じがしますね。でもスモールグループ学習という英語があるように、欧米でも結構小集団学習は行っているようですね。

 

●集団登下校

これはどうですか。集団登下校。これなら欧米では絶対行わないでしょうね。でも不思議ですね。日本は世界の中で最も危険な国でしょうかね。自動車事故。誘拐。通り魔。殺人。欧米の街に比べて日本は特に多いのでしょうね。アメリカなどの方がもっと怖い感じがしますけどね。日本は危険なのでしょうね? 子どもの安全を考えて集団で登下校する風景がよく見かけられますよね。皆さんも集団登下校した経験があるでしょう。これは日本的でしょうね。外国の人からみると、その風景はとても奇妙に見えるようですよ。日本でも集団登下校を批判して、かつての軍国主義的教育であると強烈に批判する人がいましたね。「詰襟の黒い学生服に坊主頭」。これも軍国主義の名残だと批判・非難されることが少なくなかったですね。

昔大橋巨泉氏の番組『大橋巨泉のこんなものいらない―校則』(日本テレビ)に出演した時、面白い実験をしてくれました。アメリカの生徒が日本のような黒い学生服を着て、集団でアメリカの街で道の信号を渡る、という実験です。多くの人が珍しそうに眺めて、不思議な光景を見たような感じを表現していました。日本では当たり前の光景がアメリカでは異様に映るということで、日本の校則を世界のそれと対比しながら考えるという番組でした(世界の校則を調査研究していた者は当時、世界広しといえども私だけであったので、出演依頼がありました)。でもアメリカではスクールバスで集団登下校をしていると思えば、何も日本だけではない、と強弁できるかもしれませんね。悪口を言おうと思えば、「“軍隊の車による集団移送”と同じだ」「自動車の色が黄色と黄緑の違いがあるだけだ」などと言いがかりもできるかもしれませんね。

それにしても、集団登下校が日本的教育様式であると思うのは何となく気がひけますね(でも子どもの安全には代えられませんから、何を言われようと、集団での送り迎えは必要かもしれませんね。残念ですけれど)。