ホーム>世界の学校こぼれ話 第11回 教育様式② その二

世界の学校こぼれ話 二宮 皓
AkiraNinomiya

【PROFILE】二宮 皓(にのみや・あきら)
1945年、鳥取県生まれ。広島大学教育学部卒。広島大学大学院教育学研究科博士課程中退。大学院在学中米国フルブライト留学(コネチカット大学)。文科省大臣官房調査課、広島大学教授、同大学留学生センター長・教育開発国際協力研究センター長・理事・副学長、放送大学理事・副学長、比治山大学学長などを歴任。専門は比較・国際教育学。著書に『世界の学校』(学事出版)、『21世紀の教育と学校』(協同出版)、『こんなに違う!世界の国語教科書』(監修、メディアファクトリー新書)、『こんなに厳しい!世界の校則』(監修、メディアファクトリー新書)など。テレビ『世界一受けたい授業』への出演なども。

このシリーズは、協同出版発行の月刊『教職課程』に2009 年9月号から2010年8月号までに連載した「放課後の学び舎」を採録したものです。

第11回

教育様式② その二

学校掃除にみるアジア的教育様式

私が広島大学で先生になって初めて大きなプロジェクトとして比較教育研究に取り組んだテーマが、何と「世界の学校掃除の比較研究」でした。完成するまでに、学生の皆さんも巻き込んで、4年の歳月を費やしました。昭和50(1975)年のときでした。同じ研究室の教授は恩師の沖原豊(後に広島大学長になった人でもある)で、私は彼のもとで講師をしていました。当時の大学は「講座制」で、今の皆さんには想像できないでしょうが、上下関係も厳しいものでした。外国の人から「日本の学校では子どもたちが掃除を行っているが、その理由はなんですか」と問われ、答えることができなかったという事実が、学校掃除の比較研究のきっかけでした。同時に欧米ではどうも学校で生徒たちが掃除をしていないのだということも知りました。

人から問われてその答えが見つからないほど情けないことはないようですね。教育学研究とはルソーやペスタロッチの教育思想の研究、義務教育制度などの教育制度史研究、ギリシャ・ローマ時代あるいは近世の学校などの西洋教育史研究、教授学や教育方法学の研究が学問の王道と言われている時代に、掃除の、しかも世界の学校掃除の研究というわけで、学生もまったく入らなったようです。でも私は、何とかしなければいけないので、学生の皆さんと一緒に、どう研究していいかもわからないままに、世界の学校掃除の比較調査を始めた次第です。手紙で尋ねたり、時には国際電話で尋ねたり、と学校では誰が掃除をしているのか、という情報を収集して回っていました。執念は実るもので、何とか世界100カ国以上の国の学校での掃除の様子(誰が行うか)がわかりました。

世界の学校では、日本の学校のように生徒が学校の掃除をする国があることがわかりました。韓国や台湾、タイなどのアジアの国々でした。学校掃除は生徒が行っているのです。

それに対して欧米の学校では、生徒はまったく学校で掃除をしません。掃除をする人を雇用しているのが欧米の学校です。ラテン・アメリカの学校もそうでした。中近東の学校もそうでした。大人が掃除をしているのです。

ところが世界にもう一つ不思議な国のグループがあったのです。それが旧社会主義の国々です。ソ連、ポーランド、ハンガリー、ユーゴスラビアなどがそうです。何とそれらの国では掃除をする大人とは別に、「生徒も学校の掃除を行う」ことになっていました。

こうした学校掃除の態様を世界地図に色分けして塗ってみました。アメリカのコロンビア大学の比較教育学者によると、比較教育学は「教育の地理学」であるといっていましたので、地図に描くことは不思議でも何でもありませんでしたね。地図に描いて初めて、世界の学校掃除がこうした分布をしていることがイメージできましたし、世界の学校掃除の分類が可能となりました。清掃員型。清掃員・生徒型。そして生徒型。3類型ですね。

皆さんもいろいろなデータが集まってきたら一度、地図に描いて見られたらいいですね。なぜそうなっているのか、についても仮説も立てやすくなります。

そこで生徒による学校掃除がまさにアジア的教育様式の最も典型的な事例であるという確信を深めましたが、問題はなぜそうなのか、という説明モデルの開発にありました。依然として、外国人に尋ねられた「なぜ?」という問いには答えていないからです。つまりなぜ日本では、アジアのいくつかの国では生徒が学校で掃除をしているのですか、という質問に誰も答えていないのです。