ホーム>世界の学校こぼれ話 第13回 教育様式③ その二

世界の学校こぼれ話 二宮 皓
AkiraNinomiya

【PROFILE】二宮 皓(にのみや・あきら)
1945年、鳥取県生まれ。広島大学教育学部卒。広島大学大学院教育学研究科博士課程中退。大学院在学中米国フルブライト留学(コネチカット大学)。文科省大臣官房調査課、広島大学教授、同大学留学生センター長・教育開発国際協力研究センター長・理事・副学長、放送大学理事・副学長、比治山大学学長などを歴任。専門は比較・国際教育学。著書に『世界の学校』(学事出版)、『21世紀の教育と学校』(協同出版)、『こんなに違う!世界の国語教科書』(監修、メディアファクトリー新書)、『こんなに厳しい!世界の校則』(監修、メディアファクトリー新書)など。テレビ『世界一受けたい授業』への出演なども。

このシリーズは、協同出版発行の月刊『教職課程』に2009 年9月号から2010年8月号までに連載した「放課後の学び舎」を採録したものです。

第13回

教育様式③ その二

日本などアジアでは、なぜ学校で生徒が掃除をするのか

学校で生徒が掃除をしている国は、不思議とアジアの仏教的伝統を残す国であることがわかりました。まさにアジア的教育様式であり、アジア的人間形成様式であるといっても過言ではありません。世界にはない日本の学校実践でもありますし、家庭教育においても強調された伝統的なしつけでもあったのです。

 

●周梨槃特の説話と「心の掃除」

「増一阿含経」で語られている説話があります。1頁にも満たない短い説話ですが、これほど意味深長で後世の学び場に大きな影響を与えた説話は他にないと思います。周梨槃特(しゅりはんどく)はお釈迦さんのもとで修行をしている若き学僧ですが、いかんせん記憶力が少し劣るためになかなか暗記できません。自分の名前さえ覚えられないので、自分の名前を書いた紙をぶら下げて修行していたそうです。ちなみにミョウガを食すると物忘れがひどくなる、という話がありますが(広辞苑)、ミョウガは茗荷と書きますが、茗荷は実は周梨槃特のニックネームであったのです。周梨槃特の死後、彼の墓の周りに芽をだしたのが、美味しいミョウガであるということから、ミョウガ(茗荷)を食べると彼のように記憶力が低下し、自分の名前さえ忘れてしまうという話が伝わったといいます。

 

彼がある日、祇園精舎の庭で泣いている所にお釈迦さんが通りかかり、なぜ泣いているのかを尋ねた。一緒に修行している兄から「3年半も勉強していても教えの一言さえも諳(そら)んじていない。見込みがないから帰って親の手伝いでもするように」と言われたのが悲しくて泣いていますと申し上げた。するとお釈迦さんは傍らの箒をとって、「周梨槃特よ。明日から教室に来なくていいから、この箒をもって、朝に夕に庭を掃除するように。その際「塵を除こう、垢をとろう」と唱えながら掃除をするように」と諭された。

それから3年。周梨槃特は掃除に余念がなかったが、ある日お釈迦さんは「掃除をすることは周りを奇麗にするだけでなく、自分の心の塵、心の垢をきれいにするように」という意味で言われたのであろうとお釈迦さんに言ったところ、お釈迦さんは「汝は悟りをえたり」と喜ばれたそうだ。

 

まさにこの説話は掃除が心を磨くことを意味しているのです。掃除は悟りを得る手段の一つとして教えられているのでしょうね。座禅と同じとはいえないにしても、人は何事であれ、一心に行えば必ずや心の安定を手にすることができるという教えであるともいえるでしょう。