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行政からみた戦後教育史 菱村幸彦
菱村幸彦

【PROFILE】
菱村幸彦(ひしむらゆきひこ)
京都大学法学部卒。文部省に入り、教科書検定課長、高校教育課長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、公立学校共済組合理事長、駒場東邦中・高等学校長などを歴任。
現在、国立教育政策研究所名誉所員、一般社団法人日本図書教材協会会長。
〔著書〕『やさしい教育法規の読み方』(教育開発研究所), 『はじめて学ぶ教育法規』(同上), 『教育の窓・法律の窓』(小学館), 『戦後高校教育史』(学事出版), 『私のリーダー論』(日本教育新聞社), 『私の校長学』(学事出版), 『戦後教育はなぜ紛糾したか』(教育開発研究所)など多数。

 

この連載は、ジアース教育新社刊「文部科学 教育通信」に2017年8月より連載されているシリーズを転載しています。

第17回

戦後教育の異常さの象徴 <上>

国旗・国歌は、教育基本法と並んで、もう一つの論争的課題だった。「日の丸」を国旗、「君が代」を国歌と認めない教師集団が、学校における国旗掲揚と国歌斉唱に反対したからだ。公教育を担う教師集団が自国の国旗・国歌を拒否し続けたことは、戦後教育の異常さを象徴している。

 

日教組の反・国旗国歌運動

終戦直後、GHQ(占領軍総司令部)の指令で「日の丸」の掲揚が禁止された。が、この禁止令は、昭和24年にマッカーサー総司令官の年頭所感で解禁となった。

翌25年に天野貞祐文相は、学校で行事を行う際、「国旗を掲揚し国歌を唱道することが望ましい」とする談話を発表し、全国の教育委員会に通達した。しかし、国旗を掲揚し、国歌を斉唱する学校は少なかった。その背後には、日教組による国旗・国歌に対する反対運動があった。

日教組は、昭和26年の定期大会で、「教え子を再び戦場へ送るな」というスローガンを掲げ、「反戦平和教育」を推進した。反戦平和教育では、日の丸を「軍国主義と侵略のシンボル」、君が代を「主権在民の憲法原理を否定するもの」と決めつけ、国旗・国歌を排斥した。

独立後、戦後教育の見直しに取り組んだ文部省は、昭和33年の指導要領改訂で「国民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には(中略)国旗を掲揚し、『君が代』を斉唱させることが望ましい」と定めた。

この改訂に反対した日教組は、入学式や卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱の阻止闘争を展開した。日教組の勢力が強い地域では、国旗掲揚・国歌斉唱を職員会議で否決し、実施を阻んだ。管理職が掲揚した国旗を教員が引きずり下ろす学校もあった。

 

国旗国歌をめぐる二つの争点

国旗・国歌をめぐる争点は二つあった。

第1は、国旗・国歌の法的根拠論である。国旗・国歌に反対する教師らは、「日の丸」を国旗、「君が代」を国歌とする法的根拠がないことを反対の論拠とした。

これに対し、政府は、太政官布告で「日の丸」を国旗と規定していること、日の丸・君が代が国旗、国歌であることは慣習法として定着していることを挙げ、国旗・国歌の法的根拠を論証した。

第2は、思想信条の自由論である。反対派は、①「日の丸」「君が代」は、皇国思想・軍国主義思想の精神的支柱として用いられた経緯があること、②それとどう向きあうかは、個人の思想・信条と切り離すことができないこと、③それを無視して、国旗・国歌の指導を強制するのは思想信条の自由に反すること――を主張した。

これに対して、文部省は、①国旗・国歌の指導は、児童生徒にわが国や諸外国の国旗・国歌の意義を理解させ、尊重する態度を育成することにあること、②それは国語や算数等と同様に児童生徒が身に付けるべき基礎基本の一つであること、③教員にその指導を求めることは思想信条の自由とは無関係であること――を説いた。

 

国旗国歌法の制定

多くの学校現場で、毎年、卒業式・入学式の時期になると、国旗掲揚・国歌斉唱をめぐって、論争が繰り返された。校長が指導要領に基づいて国旗掲揚や国歌斉唱を行おうとしても、「望ましい」とする指導要領の規定に拘束性はないとして、職員会議で否決するケースが少なくなかった。

文部省は、平成元年の指導要領の改訂で、「望ましい」を改め、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と規定して、学校に国旗掲揚と国歌斉唱の実施を義務付けた。

この改訂に日教組は反発し、各学校において校長に国旗掲揚・国歌斉唱を行わせない圧力をかける運動を強化した。そうした中で、校長の自殺事件が発生した。

平成10年、広島県の高校長が、指導要領に基づき国旗掲揚・国歌斉唱を行おうとしたところ、職員会議で国旗・国歌に法的根拠がないことを理由に反対された。校長はその後も職員会議で話し合おうとしたが、組合に拒否され、思い悩んで自殺した。

この自殺事件がきっかけとなって、平成11年に「国旗及び国歌に関する法律」が制定された。同法は、国旗・国歌の法的根拠を明記した。

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