ホーム>教育深夜便 第20回 「パソコン音痴高齢者」のつぶやき

教育深夜便 川野邉 敏

-Profile-

川野邉 敏(かわのべ さとし)

昭和5年埼玉県生まれ。昭和28年東京外国語大学ロシア語科卒後、文部省入省。 昭和48年から国立教育研究所で国際関係・生涯学習関係の研究に従事。平成7年より常葉学園大学教育学部教授、平成16年より星槎大学教授。この間、東京大学学部および大学院、慶応大学・広島大学・筑波大学大学院等で非常勤講師。専門は比較教育・生涯学習。主な著書に『ソビエト教育の構造』(新読書社)、『ロシアの教育―過去と未来』(新読書社)、『子どものしつけ』(三一書房)、『現代に生きる教育思想』(ぎょうせい)、『世界の幼児教育』(日本らいぶらり)、『新任教師への手紙』(ぎょうせい)、『生涯学習論』(福村出版)、『教師論』(福村出版)など多数。

 
 

第20回

「パソコン音痴高齢者」のつぶやき

「情報化社会・ネット社会の到来」などという言葉に驚いていたら、「IT時代」ということで、連日テレビの画面では、ロボット導入や無人自動運転車、IT企業新設をはじめ産業界の多くで「企業の合理化」が進行中などと伝えられています。日常の買い物はすべてカード決済になり、「紙幣経済は消滅するであろう」などなど、「資本主義経済」の終焉さえ指摘されると、人間がこれまで営々と築き上げてきた「経済観や労働観」はどうなり、そこでの人々の暮らしや労働はどうなってしまうのか? 次の世代の子どもたちの生活はどうなるのか? そんな近未来を想像すると、我々高齢者にとっても安閑としていられない不安な気持ちになってしまいます。

 

そんなとき、私自身が身近な恐怖を感じる事態が起こりました。「パソコン」に奇妙なメールが入ってくるのです。見たことも聞いたこともない「SPAM」とかいう英文のメールが毎日複数入ってきて、時には「このメールを緊急に読め」といった日本語での内容も書き込まれているのです。私などは、「パソコン」はただ知人や関係機関との連絡に使うか、たびたび書く簡単な文章やエッセイなどを「ドキュメント欄」に記憶のために蓄積しておくだけなのですが、「お前の情報は全部把握している」などと書かれていると、なんとも気が気でない精神状態になってしまいます。それらメールは、もちろんすぐに消去してごみ箱に捨てているのですが、パソコンの機能や構造など全く知らない私にとって、何とかできないものかと考えあぐね、とりあえず「パソコン」を点検・整備してもらったのです。しかし、その後も未知のメールは消えることはありません。「どこのパソコンにもそんなメールは入ってくるので、ともかく無視して捨てることしかない」という助言をいただき、気にしないようにしていますが、なんとも恐ろしい時代が迫っていることを実感し、「機械音痴」の自分に反省しきりです。現在でもこんな状況ですから、「IT社会」の到来は、一面便利さを持っていますが、「危険」な側面も今以上に持つことになるのではないかと心配してしまいます。

 

これら社会環境の変化を予測し、21世紀教育の在り方が早くから指摘されてきました。国際的には、ユネスコの「21世紀教育国際委員会の提言=知ることを学ぶ・為すことを学ぶ・共に生きることを学ぶ・人間として生きることを学ぶ」(1996)がありますし、OECDでは、「知」の在り方について「三つのキイ・コンピテンシイ=相互作用的に道具を用いる力・自律的に活動する力・異質な集団相互で交流する力」(2002年)の育成を求めてきました。我が国でも、新しい学習指導要領で「基礎的・基本的な知識・技能の習得」に加えて、「思考力・判断力・表現力・学習意欲」などを挙げていることはご承知の通りです。そして、新しいカリキュラムの中に、プログラミングや外国語の履修をはじめ、これからの社会で生きていくための「生きる力」を育てるよう求めています。

 

子どもたちも、我々の生きてきた時代とは違い、幼少のころから情報機器に慣れ親しみ、毎日「スマホやSNS」を駆使して、苦も無く情報を摂取し、交流を続けているようですから、我々高齢者が心配する必要はないかもしれません。しかし、「入力・クリック・選択・判断・再入力~」だけの操作で、まだまだ生活できる社会ではなさそうです。落ちこぼれ・不登校・ネット依存・孤立化・犯罪など、「負の部分」もすでに現実になっています。一部の人だけが情報機器を巧みに駆使して生きればよい時代ではありません。格差社会の到来を見逃すわけにもいきません。目前の子どもたち一人一人に人間としての「生きる力」を身につけてやるのが、我々成人の務めといえるでしょう。

 

先生方は、その「中核」に位置づけられているのです。「IT社会の負の部分」を乗り切り、その社会で生きる子どもたちの姿について、改めて考えさせられました。