ホーム>教育深夜便 第39回 「高齢者の在り方・生き方」について考える

教育深夜便 川野邉 敏

-Profile-

川野邉 敏(かわのべ さとし)

昭和5年埼玉県生まれ。昭和28年東京外国語大学ロシア語科卒後、文部省入省。 昭和48年から国立教育研究所で国際関係・生涯学習関係の研究に従事。平成7年より常葉学園大学教育学部教授、平成16年より星槎大学教授。この間、東京大学学部および大学院、慶応大学・広島大学・筑波大学大学院等で非常勤講師。専門は比較教育・生涯学習。主な著書に『ソビエト教育の構造』(新読書社)、『ロシアの教育―過去と未来』(新読書社)、『子どものしつけ』(三一書房)、『現代に生きる教育思想』(ぎょうせい)、『世界の幼児教育』(日本らいぶらり)、『新任教師への手紙』(ぎょうせい)、『生涯学習論』(福村出版)、『教師論』(福村出版)など多数。

 
 

第39回

「高齢者の在り方・生き方」について考える

「新しい環境の中での高齢者」としての生き方を考えています。「生涯学習」「人生100年時代」「戦後75周年」などといわれても、先生方や子どもたちにとっては、「知識としての情報」にすぎないかもしれませんが、「高齢者自身」にとっては「その在り方」が問題とされ、自分自身に降りかかってくるのです。私自身、今年90歳という年齢を迎え、どのように人生を締めくくったらよいのか、考えざるを得ない時期なのです。

 

戦前・戦中・戦後の体験を話すことも大切でしょうし、8月6・9日を迎え、原爆の被害や、戦争の悲惨さなどを語り伝えるのも貴重な仕事に違いありませんが、それと同時に自分自身の環境や生活の変化をどう受けとめ、どう行動したらよいのか、考えざるを得ません。そこで、今回は高齢者ゆえに、環境の変化を体験している「一事例」として、「在り方の問題」を取り上げることにしました。

 

妻が昨年6月に亡くなり、一人暮しの生活を体験してみると、突然の変化に悩ませられます。1人で食事を作り、1人で食べ、テレビを見て、コロナの増減や天気予報を繰り返し眺め、午後になると昼寝をしてしまう。特に目的もなく日々を過ごしてしまうので、そんな人生を送るだけで満足すべきなのか、少しは動けるうちに、自分なりの「生きがい」を感じる仕事でもできないものなのか……と考えてしまいます。

 

そこで現在長男が生活し、父母を呼び寄せようと計画していた札幌へ転居し、高齢者であっても、多少の役割を分担して生きていけないものかと思い、移住を決意しました。幸い、息子自身も定年を迎える年齢に達し、第2の人生を迎える準備をしていました。彼の計画では、自宅を作るだけでなく、近隣の人々や個人的な事情で生活に悩んでいる人々のために、新しい生活・活動の場を提供するという構想で、具体的には、私たちの住居と同時に地域の人々との懇談の場(コミュニティ・サロン)や個人生活に悩んでいる少人数の人々を対象とした個室を設け、全体としては、助け合いながら生活するというものでした。私たち親子が挑戦する構想としては多少無理があるように思ったのですが、これからの社会状況を考えると、やってみる価値はあると判断しました。

 

こちらに来て、孤独な生活は解消し、夏の暑さも感じずに過ごすことはできて、今年の暑さを感ぜずに、ほっとしていますが、改めて「高齢者の生きがい」を考えさせられました。たまたま北海道新聞の社説に、小林秀雄の晩年の生活の状況(一人で酒を飲み、時に友人と深酒をして家族を悩ませたこと)や最近の高齢者の犯罪の増加などを挙げて、「これからの高齢者の生き方を早急に改善しなければならない」(8月24日・朝刊)との話が出ていました。

 

これからの社会では、高齢者・生活困難者などが増大することは間違いありません。公的な制度の中で、それを全部支えることも難しいでしょう。そこで、すでに本欄で、私の友人や教え子は70~80歳を超えても、子どもや地域のために活動しているということを紹介してきました(第35回参照)。